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3ヶ月前に私はお母さんになりました_ 小学6年生の息子の母です_ 息子は夫の連れ子で、寝顔がとても夫に似ています_私と目が合うことは少なく、最近やっと「おはよう」と言ってくれます_ そんな息子が今日、サッカークラブの最後の試合の日でした_ いつものように、お弁当を作ってあげました_けれど、卵焼きは出汁ベースではなく、甘い砂糖ベースの卵焼きを入れました_ 最近、夫に聞きました_息子は甘い卵焼きが好きなんだと、 私は毎回、出汁ベースの卵焼きを入れていました_ 「どっちの味も好きだと思うよ」 夫はそう言ってくれましたが、今日は、前の奥さんの味、甘い卵焼きを焼きました_ 今日は仕事が休みだったので、内緒で息子の試合を観に行きました_ 電車に1時間揺られ、遠くの橋の上から眺めました_きっと私が来たと分かると集中できないと思ったので、最後まで隠れていました_ グラウンドを駆ける息子の姿は、後ろを舞う砂埃さえも輝いてみせて、その黄色い笑顔に、私は何度も小さな拍手を送りました_ 試合が終わり、私は帰ろうと河川敷を歩いていました_ すると、遠くのほうから息子の声がして、振り返ると、グラウンドから手を振る息子がいました_ 「おかあさんっ」 私に向かって、息子がそう叫んでいました_ 周りにはクラブのお友達がいるのにもかかわらず、大きな声で叫んでいました_ 私は生まれて初めて呼ばれるその言葉に、驚いて立ち尽くしてしまいました_ 私は小さく手を振り返し、笑顔をみせました_ 息子は嬉しそうに飛び跳ねて、また私の名前を呼びました_ 「おかあさん、またあとでね」 私はそのあと、あたたかいココアを買って歩いて帰りました_ その日の晩、からっぽになったお弁当箱に手紙が入っていました_ 『お弁当おいしかったよ、これからもまた作ってね』 私は思わず台所でしゃがみ込んでしまいました_ 『でも、たまごやきは甘くないやつがいいな』 と、かわいい顔文字も書いてありました_ その日、私は晩ごはんに卵焼きを焼きました_ベースは出汁です_私の味です_息子は2杯ご飯を食べました_ また私は、甘い卵焼きを焼くかもしれません_けれど、たまにはこうして、私の味も作ろうと思います_ 来週、息子とふたりでサッカーをしに行きます_お弁当作ってねって、頼まれたので、たくさん卵焼きを詰めようと思います_ まだ息子とは目は合いませんが、今日は手を繋いで寝ました「おかあさん、来週がとってもたのしみだね」だなんて、電気を消したあと、私に向かって言ってくれました_